むかしむかしのその昔。エルダさんがまだ幼かった頃のことです。
すっかり夜も更けた森の奥。
木の根や地面を覆う植物が絡みつく道なき道に、獰猛な獣がうろうろと徘徊するきわめて危険な夜の森林でも、ここは彼らにとっては庭同然です。
森を熟知したエルフ族たちは、水晶に光を封じ込めた魔法の石で足下を照らします。雨に降られても強風でも決して消えない強くも優しい光の加護を受けて、ほのかに緑に光る結界を抜けると、光にあふれた家が見えてきました。
世界各地にあるオルティスの隠れ家のひとつ。夜でも室内をまぶしく照らすも、いくつか人影が見えます。いつもどおり弟妹たちが勝手に乗り込んで、好きにやっているようです。
「あー、オルティス兄ちゃんおかえりー! 適当に時止庫あさってご飯作っておいたよー」
「兄貴、先に一杯やらせてもらってるよ。蜂蜜酒が熟成されてちょうど飲みごろだ」
「アエルのやつめ、隠しておいたとっておきの樽を開けおったな……!」
「ほら兄上、あたしの言ったとおりだろう? 絶対にあいつら先回りしてここにいるって」
「アレクシス姉さんだったら美味しい夕飯が待ってるね、兄さん」
「そうだな。一日中歩き回ってお前も疲れただろう、エルダ」
「ううん、まだ大丈夫。それよりお腹すいちゃった」
「食事をすませて湯につかったら、今日はすぐに休みなさい」
「うん、美味しそうな果物たくさん拾えたね」
「兄さまたち、獲物はどうだったー?」
「果物ときのこと木の実と香草……肉の方は残念ながら成果なし」
「たまにはこういう日もあるさ、ニァサ。燻製肉の在庫はあるから、明日は採取したものを加工するとしよう」
「兄さん、私、アレクシス姉さんと果物の砂糖煮のパイを焼きたい」
「いいねえ、あたしが牛乳と蜂蜜を煮詰めた氷菓子作るから、明日はそいつでみんなでお茶にしよう」

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